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馬鹿の独り言

物忘れの酷い俺のためだけのブログ

石田勇治/ヒトラーとナチ・ドイツ

ヒトラーとナチ・ドイツ (講談社現代新書)

ヒトラーとナチ・ドイツ (講談社現代新書)

 

 

ちょっと前に「帰ってきたヒトラー」を読んだけれども、俺はナチスについて何も知らない。

ティムール・ヴェルメシュ/帰ってきたヒトラー - 馬鹿の独り言

俺は、独裁政権が好きだ。人を従えたり操ったりするのちょー楽しい。リーダーシップと言い換えても良い。いや、別にだからって独裁者になりたいとか言ってるわけではない。人間心理とか、管理システムとか、人類と永遠に切り離せないであろう「権力」という構造に興味があると言っているんだ。勘違いしないでよね。独裁者になるくらいならベッドでごろごろしてる方が好きだし。

そもそも、そんな俺の興味とか以前の話だ。仮にも大学院まで卒業して大人の仲間入りを果たしたっぽい人間として、人類史に消えない傷痕を残した第二次大戦の主役たるナチス・ドイツを全く知らないなんて、恥晒しにも程がある。

そう思ったので読んだ。

 

この本によれば、エーリッヒ・フロムの言っていたことは真実だったようだ。

ナチのイデオロギーは小さな商店主、職人、ホワイト・カラー労働者などからなる下層中産階級によって、熱烈に歓迎された。

自由からの逃走 新版より引用

今回ナチスの歴史を辿ってみるまではそんな馬鹿な話があるもんかと思っていたけど、どうやらヒトラー率いるナチスは、本当に選挙によって民衆から支持され、他の政党を謀略で突き崩しつつ躍進していき、いつしかドイツ=ナチスヒトラーというところまで上り詰めたらしい。正直全く実感がわかない。荒唐無稽な話だ。

他にも、印象的な一文がある。

政府の反ユダヤ政策は急進化した。だが、ほとんどの人が、これに抗議の声ひとつあげなかった。いま聞くと、それも異様なことに感じられるが、人口で一パーセントにも満たない少数派であるユダヤ人の運命は、当時の大多数のドイツ人にとってさほど大きな問題ではなかったのである。

ヒトラーとナチ・ドイツ (講談社現代新書)より引用

学校ではユダヤ人虐殺が強烈な印象で教え込まれていたし、ユダヤ人は何千万人と殺されたイメージがあったので、当時のドイツではユダヤ人の割合はけっこう高いんじゃないかというイメージがあった。フロイトアインシュタインもユダヤ系だし、先に引用したエーリッヒ・フロムもそうだ。しかし、実際には1パーセントもいなかったというじゃないか。ユダヤ人がこんな少ない割合でしかいなかったとなると、話は変わってくる。全体の1パーセントに満たないなら、1つの集合住宅や地域に数人いるかいないかという程度でしかなかったということだ。そんなんだったら(ヒトラー的な意味での)アーリア人一般市民からすれば、殆ど気にならないかも知れない。俺だって、自分の住んでる地域の回覧板で誰かが亡くなりましたとの報せが回ってきても、正直なんとも思わない。顔も名前も知らない人の訃報を見ても、特にピンと来ないからだ。

それに加えて

ヒトラー政権下の国民は、あからさまな反ユダヤ主義者でなくても、あるいはユダヤ人に特別な感情を抱いていなくても、ほとんどの場合、日常生活でユダヤ人迫害、とくにユダヤ人財産の「アーリア化」から何らかの実利を得ていた。

たとえば同僚のユダヤ人がいなくなった職場で出世した役人、近所のユダヤ人が残した立派な家屋に住むことになった家族、ユダヤ人の家財道具や装飾品………(中略)………動産・不動産を「アーリア化」と称して強奪した自治体の住民たち。無数の庶民が大小の利益を得た。

 ヒトラーとナチ・ドイツ (講談社現代新書)より引用

とある。経済学的な言い方をすれば、「富の再分配」を市場メカニズムに任せるのでなく人為的かつ爆発的に引き起こしたわけだ。

これで実利を得た人がどのような気持ちだったかはわからないけど、中にはユダヤ人がいなくなってくれてラッキーと思っていた人も少なからずいた筈である。本の中では「共犯者となった国民」というタイトルが付けられており、正にその通り。望まずして財産を押し付けられたという清い人がいたかもしれないけれど、少なくとも、ラッキーと思った人はヒトラーのユダヤ人迫害に加担してしまっている。しかも、その心理的な障壁は非常に低い。だって待っているだけで良いのだ。自分でユダヤ人を銃殺したりする必要は無い。待っているだけでマイホームが手に入るというのなら、そりゃあ嬉しいに決まっている。

 

「帰ってきたヒトラー」で描かれていたヒトラーは、本当に魅力的な人物だった。実際のヒトラーがどうだったかは知る由も無いけど、正直な印象として、小説で描かれている程に潔い人物だとは思えない。とはいえ現にヒトラーは1つの国を征服しており、それにより民衆に利益を齎したというのもまた事実だ。民衆から支持を受け、君主として上に立ち、国民に利益を施すというのは、リーダーに求められる最も基本的な条件である。内容や結末はともかくとして、ヒトラーはこれを満たすことに成功している。

ヒトラーの何がいけなかったかと言えば、その方法が「人種差別」であったという1点に尽きる。ヒトラーは、第一次大戦の影響で荒廃してしまったドイツ経済の中で立ち上がり、民衆の不満を取り込み煽動して与党を打倒し、遂にはドイツそのものになった。そして国民の圧倒的な支持を受け、投票率・得票率ともに9割強という現代日本の政治家が見たら卒倒しそうなスコアを叩き出した。ユダヤ人迫害から一歩引いてみれば、ヒトラーは確かにドイツ国民にとってのリーダーだったのである。

 

ヒトラーの持つ最も優れた資質は

「人の負の感情を煽動し、崩壊させること」

だったのだと思う。人間社会で生きる俺達も、より良い人生にしようと日々生きているからこそ、時には人の負の側面と向き合わなければならない。そう思えば、唾棄すべき人種差別主義者だからといって無視するには、彼の存在は余りに大きすぎるのではないかと感じた。

 

↓参考文献

自由からの逃走 新版

自由からの逃走 新版